日本矯正歯科学会認定医・歯学博士 河底晴紀
抜歯後の傷の治り方と注意点
今回は「抜歯後の傷の治り方」について、歯科医師の立場から詳しくお話しします。
抜歯後の経過を理解しておくことで、異常の早期発見や適切なセルフケアにつながります。
1. 正常な治り方の流れ
抜歯後、口の中では驚くほど精密な組織修復が進んでいます。正常な治癒の目安は以下の通りです。
-
抜歯当日
空いた穴に血がたまり、**血餅(けっぺい)**と呼ばれる血の塊が形成されます。これが治癒の第一歩であり、天然の「かさぶた」のような役割を果たします。 -
3〜4日後
傷口の表面から上皮化(歯ぐきの再生)が始まります。まだ見た目は赤みがありますが、内側では細胞が盛んに働いています。 -
1週間後
血餅が肉芽組織という柔らかい新しい組織に置き換わります。触るとやや柔らかい感触が残ります。 -
3週間〜1ヶ月後
肉芽が結合組織に変化し、骨の再生がスタートします。まだ完全には埋まりませんが、歯ぐきの形が整ってきます。 -
1ヶ月〜1ヶ月半後
抜歯後の穴は歯ぐきでほぼ覆われます。見た目ではほとんどわからない状態になります。 -
半年〜1年後
内部の骨も完全に再生され、抜歯前とほぼ同じような健康な歯ぐきになります。
このように、口腔内は血流や細胞活動が非常に活発で、順調であれば抜歯後は自然に治っていきます。
2. 抜歯窩治癒不全とは?
ごく稀に、抜歯後の治りが遅くなる場合があります。これを**「抜歯窩治癒不全」と呼びます。
特に注意すべき状態が「ドライソケット」**です。
3. ドライソケットとは?
ドライ(乾いた)ソケット(窩=穴)、つまり「乾いた穴」という意味です。
本来、抜歯後の穴は血餅に覆われていますが、この血餅がうまく作られなかったり、途中で剥がれてしまうと、骨がむき出しになってしまいます。
-
骨が露出すると、外部刺激が直接加わるため強い痛みが出ます。
-
特徴的なのは、「抜歯直後よりも、2〜3日経ってから痛みが強くなる」ことです。
-
見た目は白っぽく、嫌な臭いを伴うことがあります。
4. ドライソケットの原因
-
骨自体の血流が悪く、血餅ができなかった。
-
うがいのしすぎや舌で触ってしまった。
-
麻酔に含まれる血管収縮薬で出血量が少なかった。
-
喫煙による血流障害。
-
抜歯後に感染を起こした。
-
難しい抜歯で骨が空気にさらされる時間が長かった。
5. ドライソケットになったときの対処法
まずは抜歯を行った歯科医院へ連絡しましょう。自己判断で放置するのは危険です。
歯科で行われる主な処置は以下の通りです。
-
傷口の洗浄・消毒
-
抗生物質入り軟膏の塗布
-
抗生物質や鎮痛薬の再処方
-
レーザー治療による炎症の軽減
-
必要に応じて、再出血させて新しい血餅を作る処置
多くの場合、1〜2週間で痛みは軽減します。
6. ドライソケットを予防するためにできること
-
抜歯当日は強いうがいをしない
-
傷口を舌や指で触らない
-
ストローなど吸引力のかかる動作を避ける
-
喫煙を控える(できれば治癒するまで禁煙)
-
睡眠・栄養をしっかりとり、体調を整える
7. 実際の症例と患者さんの声
私の患者さんで、下の親知らずを抜いた20代の男性がいます。
当初は順調でしたが、3日後からズキズキと痛みが増し、食事もままならない状態に。診察すると、血餅が剥がれて骨が見えており、ドライソケットと診断しました。
処置後、1週間ほどで痛みはほぼ消えましたが、「二度とあの痛みは経験したくない」とおっしゃっていました。
8. まとめ
抜歯後は、血餅を守ることが最優先です。
違和感や痛みが「日ごとに強くなる」場合は、我慢せず歯科医院を受診してください。
当院では、消毒やレーザー治療をはじめ、症状に合わせた適切な処置を行い、少しでも早い回復をサポートしています。
筆者プロフィール
筆者プロフィール:河底晴紀(歯学博士/日本矯正歯科学会認定医)
この記事は、河底歯科・矯正歯科院長河底晴紀が書いております。
・歯学博士
・日本矯正歯科学会認定医
◾️所属
・日本臨床歯科学会
・K-Project
・FCDC
・MID-G
・福山市歯科医師会 理事