日本矯正歯科学会認定医・歯学博士 河底晴紀
「矯正で犬歯を抜いたほうが良いと言われたけれど、本当に大丈夫なの?」
「犬歯を抜いて後悔しているという話を聞いて不安…」
このような疑問や不安を抱える方は少なくありません。
実際、犬歯は人間の歯の中でも特別な役割を持ち、安易に抜歯してしまうと噛み合わせや顔の形、将来の口腔健康に大きな影響を及ぼすことがあります。
今回は、犬歯を抜歯すると後悔する理由や、犬歯の役割、矯正治療における抜歯の是非について、わかりやすく解説します。
1. 犬歯を抜いてはいけない理由
犬歯(糸切り歯)は、単なる「歯の1本」ではありません。
犬歯には以下のような重要な役割があります。
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咬合誘導(噛み合わせの位置を正しく導く)
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犬歯ガイド(前歯や奥歯を守る働き)
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強い根と骨の支え(最も長い歯根を持ち、咀嚼力を支える)
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顔の輪郭形成(口元の支えとなり、ほうれい線や口角の位置に影響)
これらの理由から、犬歯は歯の中でも非常に重要な存在であり、他の歯で代用することが難しいのです。
もし犬歯を抜いてしまうと…
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噛み合わせの安定が失われる
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奥歯や前歯への負担が増え、将来的に摩耗や破折が進む
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口元が下がり、老けた印象になる
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矯正治療後に後戻りしやすくなる
といったリスクが生じます。
2. 犬歯が果たす役割とは?
2-1. 犬歯ガイドによる奥歯の保護
犬歯は、顎を左右に動かした際に最初に接触し、奥歯同士が強く擦れ合うのを防ぎます。
この働きを**犬歯誘導(犬歯ガイド)**と呼びます。
犬歯ガイドがなくなると、奥歯に横方向の力が加わりやすくなり、歯の摩耗や歯周病の進行を早めることがあります。
2-2. 顔の輪郭と口元の支え
犬歯は顔の立体感を保つ重要な支柱です。
抜くと口元が後退し、唇の張りが失われることがあります。特に横顔の美しさに影響し、老けた印象になる場合があります。
2-3. 強固な根と咀嚼力
犬歯は歯根が長く、顎骨にしっかりと支えられています。
硬いものを噛むときの力を効率的に支える役割もあり、この力を失うと咀嚼の質が低下します。
3. 矯正治療で歯を抜くメリットとデメリット
矯正治療では、スペースを確保するために抜歯を行うことがあります。
ただし、抜く歯の選択を誤ると、犬歯を抜くという非常にリスクの高い判断になる場合があります。
メリット(犬歯以外を適切に抜歯した場合)
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スペースが確保でき、歯並びをきれいに整えられる
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出っ歯や叢生(歯のガタガタ)が改善できる
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顎関節症のリスクを減らすことができる
デメリット(犬歯を抜いてしまった場合)
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噛み合わせのバランスが崩れやすい
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奥歯や前歯の摩耗が加速する
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審美面で老け顔になりやすい
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後戻りが早く、長期的な安定が難しい
4. 矯正の知識がない歯科医師が犬歯を安易に抜いてしまう理由
犬歯抜歯が行われる背景には、以下のような理由があります。
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犬歯の位置異常や八重歯を単純に「邪魔」と判断する
八重歯は目立ちやすく、審美的な理由で抜歯を勧めるケースがあります。 -
矯正専門医ではないため、長期的な噛み合わせや機能を考慮していない
一般歯科では矯正治療の経験が少なく、機能的なリスクまで説明されないことがあります。 -
短期的な治療ゴールを優先する
スペース確保や見た目の早期改善を目的に、犬歯を抜くほうが手っ取り早いと判断してしまうケースです。
5. 犬歯を残すための矯正の考え方
矯正の専門医は、犬歯を極力残す治療方針を取ります。
犬歯が正しい位置に並ぶように、以下のような方法を組み合わせます。
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奥歯を後方に移動してスペースを作る
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歯列の幅を広げて犬歯が並ぶ場所を確保
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小臼歯(犬歯の後ろの歯)を抜いて犬歯を残す
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歯の形を少し削ってスペースを作る(ストリッピング)
これらを駆使することで、犬歯を残しつつ理想的な歯並びと噛み合わせを作ることが可能です。
6. 犬歯を抜いたことで後悔する声
インターネットやSNSでは、犬歯を抜いてしまった方の後悔の声が多く見られます。
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「口元が下がって老けて見えるようになった」
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「奥歯が欠けやすくなった」
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「矯正後すぐに後戻りしてしまった」
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「食べ物が噛みにくくなった」
これらはすべて、犬歯が持つ重要な役割を失ったことに起因する可能性があります。
まとめ|犬歯はできる限り残すべき
犬歯は単なる1本の歯ではなく、噛み合わせ・顔貌・咀嚼機能の安定に欠かせない大切な歯です。
矯正治療で抜歯が必要な場合でも、犬歯を抜く選択は最終手段であり、安易に行ってはいけません。
福山市で矯正治療を検討している方は、日本矯正歯科学会認定医のいる歯科医院で相談し、犬歯を守る治療方針を提案してもらうことを強くおすすめします。
筆者プロフィール:河底晴紀(歯学博士/日本矯正歯科学会認定医)
この記事は、河底歯科・矯正歯科院長河底晴紀が書いております。
・歯学博士
・日本矯正歯科学会認定医
◾️所属
・日本臨床歯科学会
・K-Project
・FCDC
・MID-G
・福山市歯科医師会 理事