日本矯正歯科学会認定医・歯学博士 河底晴紀
「矯正中は歯みがきが難しくて不安」「装置がついたままでも虫歯治療はできるの?」——こんなご相談を頻繁に、いただきます。結論から言うと、矯正治療中でも虫歯は適切に治療できます。大切なのは“どのタイミングで”“どの方法で”治すかの見極めです。
当院(福山市・河底歯科矯正歯科)には、日本矯正歯科学会認定医が2名、日本口腔外科学会専門医が2名在籍。
矯正・保存・補綴・口腔外科が院内でシームレスに連携できるため、高度な親知らず抜歯を含めたトータルな対応が可能です。矯正を止めずに虫歯や歯周病治療を並行できるのが強みです。
なぜ矯正中は虫歯になりやすいのか
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プラークの停滞:ブラケットやバンド周りに汚れが溜まりやすい。
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清掃器具の難易度アップ:フロスが通しにくく、歯間清掃が後回しになりがち。
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食習慣の変化:痛みや違和感で軟らかい・粘つく食品が増え、停滞時間が延長。
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口呼吸・乾燥:装置装着後の口唇閉鎖不全で唾液の自浄作用が低下。
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アライナー(マウスピース)特有のリスク:装着中は唾液が触れにくく、糖性飲料と併用で脱灰が進む。
このため、定期的な虫歯リスク評価(白斑=ホワイトスポットの早期発見含む)が欠かせません。
まずは重症度の見極めが第一歩
虫歯(う蝕)は大まかに次の段階で評価します。
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初期脱灰(ホワイトスポット):エナメル質の白濁。痛みなし。
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C1(エナメル質内):小さな黒点〜溝。
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C2(象牙質まで):冷たい物でしみる、穴が広がる。
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C3(神経まで):ズキズキ痛む。根管治療の可能性。
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C4(歯冠崩壊):根だけ残る。保存か抜歯かの判断。
矯正治療を止めずにいけるか、一時中断・装置撤去が必要かは、主に病変の深さ・位置・湿潤隔離(ラバーダム)可否で決まります。
装置を「外さず」治療できるのはこんな時
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小さなC1〜浅いC2で、ラバーダムまたは確実な防湿が可能な部位
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咬合面や唇側で器具のアクセスが良いケース
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アライナー治療中で、アタッチメント近接でも一部除去で対応可能な病変
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バンド周囲の二次カリエスで、バンドをいったん外して再装着できる計画が立つ場合(全装置撤去は不要)
装置を「外して」治療した方が良いのはこんな時
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深いC2〜C3(神経近接/露髄リスク)で厳密な防湿と的確な形成が必須
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歯肉縁下のマージンに及ぶ修復(湿潤隔離困難)
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根っこの治療(C3)が必要(ラバーダム必須・器具操作スペースが必要)
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大きな破折・広範囲修復/クラウン予定で、咬合・仮封・仮歯調整を伴う
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ブラケットやワイヤーが治療の視野・器具操作を著しく妨げる場合
※この場合でも、全撤去ではなく“部分撤去(セクショナル)”で済むことが多く、治療後に即日〜短期間で再装着します。歯の動きを止めないよう保定線・一時的な補助装置でリスクを最小化します。
矯正を止める?止めない?実際の進め方
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う蝕診断(視診・触診・必要に応じてレントゲン)
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病変の深さ・位置・防湿可否を判定
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外さず対応できる → その場で処置 or 早期予約
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部分撤去が妥当 → ブラケット/バンド/アタッチメントを局所的に外し、治療→再装着
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一時中断が望ましい → 治療を優先、終了次第ただちに矯正再開(計画の微修正)
ポイント:矯正の進行よりも歯の保存が最優先。ただし計画的に進めれば矯正の遅延は最小限にできます。
虫歯治療・歯周病治療は矯正と「並行」できます
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プロケア(歯面清掃・PMTC・バイオフィルム破壊)を調整毎に。当院には最新のエアフローがあります。
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口腔衛生指導:矯正専用歯ブラシ、タフトブラシ、フロススレッダー、歯間ブラシの使い分け。
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フッ化物応用:フッ素入り歯磨剤での歯磨き、局所フッ素塗布。
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食事指導:頻回の間食・糖性飲料の“ちびだら飲み”を控える。アライナー装着中は水以外NGが基本。
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歯周基本治療:出血部位の徹底除去、必要なら矯正一時減力で炎症安定を優先。
当院では矯正担当と保存・歯周担当が同日に連携し、装置調整→プロケア→必要部位の処置まで一気通貫で行うスケジュール設計が可能です。
親知らず(智歯)が関わるケースもお任せください
痛みや腫れの原因が親知らずの虫歯・智歯周囲炎のことも。動的治療中の疼痛は大きなストレスになります。
当院は日本口腔外科学会専門医が2名在籍しているため、水平埋伏などの難症例でも適切な画像診断と安全な抜歯に対応。矯正の力学設計(大臼歯遠心移動など)も術前に協議して統合します。
アライナー矯正(マウスピース)の場合
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軽度病変:アタッチメント近接部でも部分除去で治療可能。
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中等度以上:アタッチメント撤去→治療→再スキャンでリファインメント(追加アライナー)を行う。
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注意:アライナー装着中は糖分・酸性飲料厳禁。装着下に糖が滞留すると脱灰が急進します。
知っておきたい「白斑(ホワイトスポット)」対策
ブラケット周りに白く三日月状の白斑が出たら初期虫歯のサイン。
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フッ素の継続応用
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再石灰化ペーストの併用
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終了後、必要なら**レジン浸潤(インフィルトレーション)**等の審美的改善も検討
“外すときに初めて気づく”のを防ぐため、調整ごとの歯面チェックが重要です。
鎮痛剤に頼りすぎない——痛みは「サイン」
装置が当たっての痛み・しみ・咬合時痛は異常のサインかもしれません。市販薬でごまかす前にまずご連絡を。
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ワイヤー飛び出し:速やかな調整で即改善。
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しみる・噛むと痛い:虫歯・咬合性外傷・歯髄炎の可能性。早期介入で保存率が上がります。
よくあるご質問(抜粋)
Q. 虫歯が見つかったら矯正は中止ですか?
A. いいえ。外さず治せるケースが多数。必要があれば部分撤去→再装着で進めます。
Q. 矯正期間は延びますか?
A. 病変が小さければ延長は最小限。根管治療や大規模修復が必要な場合でも、計画調整で無駄を最小化します。
Q. 予防で一番大事なのは?
A. 毎日の“質の高い清掃”+フッ素。道具の使い方がカギなので、調整毎に使い方の再確認を。
「矯正中に虫歯になったかも」「しみる・痛いが続く」——そんな時は、我慢せずすぐにご相談ください。装置を外すべきか、外さずにいけるか、最短で最良の道筋をご提案します。
筆者プロフィール:河底晴紀(歯学博士/日本矯正歯科学会認定医)
この記事は、河底歯科・矯正歯科院長河底晴紀が書いております。
・歯学博士
・日本矯正歯科学会認定医
◾️所属
・日本臨床歯科学会
・K-Project
・FCDC
・MID-G
・福山市歯科医師会 理事

#矯正治療中は虫歯になりやすい