カテゴリー
カテゴリー

令和のデジタルな型取り 〜プライムスキャンで変わる歯科治療の未来〜

digital

日本矯正歯科学会認定医・歯学博士  河底晴紀

これまで歯科医院で「型取り」といえば、ピンク色や白色の粘土のような材料を口の中に入れて数分間じっと我慢する、というのが一般的でした。多くの患者さんが「苦しい」「えずきそうになる」「息苦しい」と感じた経験をお持ちではないでしょうか。従来の印象材による型取りは、確かに歯科治療には欠かせないものでしたが、患者さんにとっても歯科医師・歯科技工士にとっても大きな負担がありました。

しかし、令和の時代に入り「デジタル印象(口腔内スキャナー)」が普及し始めたことで、型取りの常識が大きく変わりつつあります。本記事では、最新機器である プライムスキャン(Primescan) を例に、デジタルな型取りの仕組み、利点、そして歯科治療の未来について詳しくご紹介します。


従来の型取りとその課題

従来の型取りでは、「印象材」と呼ばれる粘土状の材料をトレーに盛り、患者さんの口腔内に挿入して歯列全体をコピーしていました。この方法には以下のような課題がありました。

  • 不快感が強い:材料が硬化するまで数分間動けず、えずきや息苦しさを訴える患者さんが多い。

  • 精度の限界:材料の収縮や変形、気泡の混入などにより誤差が生じる可能性がある。

  • 作業効率の悪さ:硬化を待つ時間や石膏模型の作製など、工程が多く時間がかかる。

  • 再製のリスク:少しでも不備があると、再度型取りをやり直す必要がある。

これらの問題は、患者さんのストレスだけでなく、診療の効率や補綴物の精度にも影響を及ぼしていました。


デジタル型取りの登場

こうした課題を解決するべく登場したのが「口腔内スキャナー」です。スキャナーを歯にかざすことで、カメラやレーザーを用いて歯や歯肉の立体的なデータを即座に取得できます。プライムスキャンはその代表格で、従来法と比較して以下のような特徴があります。

  • スピード:全顎スキャンが1分程度で完了。

  • 高精度:肉眼では確認できないレベルの細部まで3Dデータ化できる。

  • 快適性:印象材を口に入れる必要がなく、嘔吐反射のある方でも安心。

  • データ管理:取得したデータはすぐにコンピュータ上で確認・修正可能。

  • 連携性:CAD/CAMシステムとつなげることで、補綴物を即日設計・製作できる。

つまり、患者さんにとって快適で、歯科医療者にとっても効率的かつ正確な方法が「デジタル型取り」なのです。デジタル


プライムスキャンの仕組み

動画でも紹介されているように、プライムスキャンでは歯の表面をスキャナーでなぞることで、多方向からの画像を瞬時に3D化します。さらに特徴的なのは、フェイススキャンとのデータ統合です。

  1. 口腔内スキャン:上顎・下顎をそれぞれスキャンし、歯列の精密データを取得。

  2. フェイススキャン:患者さんの顔全体をスキャンして立体データを取得。

  3. データ統合:専用ソフトで顔と歯列を自動的にマッチング。

  4. シミュレーション:治療後の見え方を再現し、歯の形・長さ・位置を顔のバランスからデザイン。

従来の型取りでは「口の中」だけを基準に補綴物を作っていましたが、プライムスキャンを用いれば「顔全体との調和」を考慮して補綴設計が可能になります。これは特に審美歯科矯正歯科において、大きな価値を持つ技術です。設備の説明はこちら


デジタル型取りのメリット

ここで、患者さん・歯科医院双方にとってのメリットを整理します。

患者さんのメリット

  • 嘔吐反射が起きにくい、快適な型取り。

  • 時間が短縮され、診療ストレスが減少。

  • シミュレーションにより治療後のイメージが確認できるため安心感が高い。

  • 精度の高い補綴物により、適合性・噛み心地が向上。

歯科医院のメリット

  • 精度が高いため補綴物の調整が少なく、チェアタイムを削減できる。

  • データはクラウド管理可能で、再利用や共有が容易。

  • デジタルラボや3Dプリンターと連携し、即日補綴物の製作も可能。

  • 施術説明にシミュレーションを活用し、患者満足度・信頼度を向上。


臨床での活用例

  1. クラウンやインレーの補綴

    従来は型取りから完成まで1〜2週間かかることが多かったが、デジタル印象+CAD/CAMにより即日修復も可能。

  2. 矯正治療

    スキャンデータを用いた矯正シミュレーションにより、治療後の歯並びを事前に確認できる。

  3. インプラント治療

    サージカルガイドの作成に活用し、安全かつ正確な埋入計画を立てられる。

  4. 審美歯科

    フェイススキャンと統合することで、顔貌との調和を考えた前歯部補綴が可能。


デジタル型取りの課題

もちろん、万能というわけではありません。

  • 保険適用範囲がまだ限定的(例:CAD/CAM冠など一部)。

  • 初期導入コストが高い。

  • ランニングコスト(exocadなどソフトウェア更新)が必要。

  • 高度な症例ではスキャナーと従来法の併用が望まれる場合もある。

とはいえ、世界的には急速に普及しており、日本国内でも今後数年でスタンダードとなることが予想されます。


まとめ 〜令和の歯科体験を患者さんへ〜

「型取りが苦手だから歯医者に行きたくない」という声は、これまで多く聞かれてきました。デジタル型取りは、この課題を根本から解決する革新技術です。

プライムスキャンをはじめとする口腔内スキャナーは、

  • 快適さ

  • 精度

  • スピード

  • 審美性への配慮

のすべてを兼ね備え、まさに「令和の型取り」と呼ぶにふさわしい進化を遂げています。

歯科医院選びの基準のひとつとして「口腔内スキャナー導入の有無」をチェックする患者さんも増えています。今後は、デジタル型取りが「患者さんに選ばれる歯科医院」の条件のひとつとなるでしょう。

歯科医院としても、単に技術を導入するだけでなく、シミュレーションや説明を通じて「安心感」を提供することがますます重要になっていきます。

筆者プロフィール:河底晴紀(歯学博士/日本矯正歯科学会認定医)

この記事は、河底歯科・矯正歯科院長河底晴紀が書いております。

◾️資格

・歯学博士

・日本矯正歯科学会認定医

◾️所属

日本矯正歯科学会

・日本臨床歯科学会

・K-Project

・FCDC

・MID-G

広島県歯科医師会

・福山市歯科医師会 理事

ページの先頭へ戻る