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妊娠中でも親知らずは抜歯できる?時期・リスク・注意点を歯科医が解説

 

 

 

 

 

日本矯正歯科学会認定医・歯学博士  河底晴紀

 

妊娠中はホルモンや生活リズムの変化によって、歯ぐきの腫れや親知らずの痛みが出やすくなります。「抜歯しても大丈夫?」「赤ちゃんに影響はない?」と不安を感じる方も多いでしょう。

今回は、妊娠中の親知らずトラブルに悩む方に向けて、「抜歯は本当に必要か」「いつなら処置が可能か」「赤ちゃんへの影響はあるのか」などの疑問や、抜歯が可能な時期、麻酔や薬の安全性、症状を和らげるための対処法などを歯科医の視点からわかりやすく解説します。

1.妊娠中でも親知らずは抜歯できる?

妊娠中に親知らずの腫れや痛みに悩む方は少なくありません。結論として、医師の判断のもとであれば妊娠中でも抜歯は可能です。ただし、処置の時期や症状の程度によって対応は変わります。

妊娠初期や後期は、できるだけ母体への負担を避けるため、急を要さない限り応急処置にとどめるのが一般的です。

一方、強い炎症や発熱、膿が出るなどの症状がある場合には、妊娠中でも抜歯が必要になることがあります。

ここでは、妊娠中の親知らずの抜歯について、「時期の目安」と「緊急時の対応」に分けて解説します。

1-1.妊娠中期(安定期)が目安とされる理由

妊娠中に親知らずの抜歯を行う場合、適しているのは妊娠中期(16〜27週頃)とされています。

つわりが落ち着き、胎盤の形成も完了しているため、胎児への影響が比較的少ない時期といえるでしょう。母体の体調も安定しやすく、治療中の姿勢や処置へのストレスにも耐えやすい傾向があります。

これに対し、妊娠初期(〜15週)は胎児の重要な器官が形成される期間にあたるため、麻酔や薬の使用はできるだけ避けるのが一般的です。

妊娠後期(28週以降)はお腹の圧迫により、仰臥位低血圧症候群などのリスクが高まることから、抜歯は推奨されません。

症状が軽く緊急性がない場合は、中期まで待つか、出産後の処置を検討することが多くなります。

妊娠中の治療については当院のマタニティ歯科のページをご覧ください。

1-2.緊急の場合は妊娠週数を問わず抜歯が必要なことも

妊娠中でも、親知らずの炎症が強く以下のような症状がある場合は、週数に関係なく抜歯が必要と判断されることがあります。

⚫︎顔の腫れや強い炎症
⚫︎膿が出る、口が開かないなどの障害
⚫︎発熱や嚥下困難を伴う感染症の進行
⚫︎痛みによる食事や睡眠への支障

これらを放置すると、痛みや発熱による母体のストレスが、胎児に悪影響を及ぼす可能性もあるためです。

抜歯の際は、局所麻酔や薬の使用を必要最小限にとどめ、安全に配慮した処置が行われます。判断は歯科医だけでなく、産婦人科と連携して進めるのが原則です。

当院では、妊娠中の方にも安心して治療を受けていただけるよう、痛みに配慮した安心治療を心がけています。

2.麻酔や薬は赤ちゃんに影響しない?

妊娠中の歯科治療で特に気になるのが「麻酔や薬が赤ちゃんに影響しないかどうか」という点です。

結論からいえば、歯科で使用される局所麻酔や必要最小限の薬であれば、赤ちゃんへの影響はごく少ないとされています。

もちろん、使用する薬剤の種類や妊娠週数によって判断は異なるため、処置にあたっては歯科医師と産婦人科医が連携し、安全性を確認したうえで対応します。

ここでは、妊娠中の歯科処置で使用される麻酔や薬について、赤ちゃんへの影響を最小限に抑えるための基本的な考え方をご紹介します。

2-1.局所麻酔の安全性

親知らずの抜歯では、通常、局所麻酔が用いられます。処置部位のみに作用し、体内への吸収はごくわずか。胎盤を通じて赤ちゃんに届く可能性は極めて低いとされています。

なかでもリドカイン(塩酸リドカイン)は、日本の歯科で長年使用されており、妊婦さんにも安全性が高いとされる麻酔薬のひとつです。

米国FDAや日本産科婦人科学会でも、妊娠中の使用は容認されるという見解が示されています。

なお、麻酔に不安が強い場合は、無理に処置を進めず、出産後に延期する選択もあります。納得できる形で治療を進めることが大切です。

2-2.薬の使用は産婦人科と連携して判断

親知らずの抜歯後に、抗生物質や鎮痛薬が処方されることがあります。

妊娠中は薬の使用を避けたいところですが、感染や強い痛みを放置する方が、母体や胎児に悪影響を及ぼす場合もあります。

そのため、必要と判断された際は、安全性の高い薬剤が選ばれます。

以下は、妊娠中でも比較的安全性が高いとされる薬の一例です。

⚫︎抗生物質:セフェム系(例:セファレキシン)など
⚫︎鎮痛薬:アセトアミノフェン(カロナールなど)

いずれも一定の安全性が確認されており、産婦人科でも使用される薬です。

薬の可否は妊娠週数や体調によって異なるため、当院では処方時に産婦人科医と連携して判断しています。

不安がある場合は、事前にかかりつけ医へ相談しておくと安心です。

3.抜歯しないとどうなる?親知らずの放置リスク

妊娠中は親知らずの抜歯に慎重な判断が必要ですが、症状があるにもかかわらず処置を先延ばしにしてしまうと、かえってリスクが高まることもあります。

腫れや痛みを我慢して放置しているうちに、炎症が広がったり、母体や赤ちゃんに影響が出たりする可能性もあるため注意が必要です。

ここでは、妊娠中に親知らずを放置した場合に起こりうる2つの代表的なリスクについてご紹介します。

3-1.炎症が広がるおそれがある

親知らずが斜めや横向きに埋まっていたり、中途半端に生えている場合、歯と歯ぐきの隙間に汚れがたまり、細菌が繁殖しやすくなります。

この状態が続くと、智歯周囲炎と呼ばれる炎症が起き、腫れや痛み、出血を引き起こすことがあります。悪化すると、顎の骨や顔全体にまで炎症が広がり、開口障害や骨髄炎などを招くおそれもあります。

妊娠中は体調管理が重要なため、炎症による負担は避けたいところです。症状が軽いうちに歯科で相談し、適切なタイミングで対応することが大切です。

3-2.赤ちゃんへの影響の可能性も

妊娠中は体調や情緒の変化によって、ストレスを感じやすい時期です。

そこに歯の痛みや発熱が加わると、さらにストレスが高まり、自律神経やホルモンバランスが乱れるおそれがあります。

強い炎症や発熱が子宮の収縮を誘発し、早産や低体重児のリスクが高まるといった報告もあります。

すべてのケースで抜歯が必要というわけではありませんが、痛みが続いてつらいときや、日常生活に支障が出ている場合は、無理をせず歯科を受診することが、母体と胎児の健康を守ることにつながります。

4.妊娠中に歯科へ行くときの注意点

妊娠中にむし歯治療をはじめとした歯科治療を受ける際には、体調や胎児への影響に十分配慮しながら、安全に処置を進める必要があります。

特に親知らずのような外科処置をともなう治療では、受診するタイミングや医院選び、治療環境にも注意が必要です。

ここでは、妊婦さんが安心して歯科を受診するために知っておきたい3つのポイントをご紹介します。

4-1.受診前に産婦人科に相談を

妊娠中に歯科治療を受ける際は、あらかじめかかりつけの産婦人科に相談しておきましょう。妊娠週数や体調によって、治療の時期や注意点が異なるためです。

妊娠高血圧症候群や糖尿病などの合併症がある場合は、体調変化に備え、歯科医と産婦人科医が連携できる体制が理想的です。

当院では、マタニティ歯科としての体制を整えており、産婦人科の情報提供をもとに、必要に応じた処置や時期の調整を行っています。まずはお気軽にご相談ください。

4-2.リクライニング姿勢や処置時間に配慮

妊娠中は、お腹が大きくなるにつれて、仰向け姿勢がつらく感じることがあります。

特に妊娠後期には、子宮が大きくなり血管を圧迫することで、めまいや息苦しさ、血圧低下(仰臥位低血圧症候群)が起こることもあります。

そのため、当院では診療中のリクライニング角度や処置時間を調整し、妊婦さんの体調に配慮した対応を心がけています。

診療中に「気分が悪い」「体勢がつらい」と感じた場合は、遠慮なくお申し出ください。必要に応じて体勢を変えたり、休憩をはさみながら処置を行うことも可能です。

4-3.抜歯費用の目安も事前に確認しておこう

妊娠中の親知らずの抜歯には、症状の程度や抜歯の難易度によって費用が変動することがあります。

一般的には保険適用となるため数千円〜1万円程度で行えることが多いですが、歯ぐきの切開や骨の削除が必要な場合は、別途加算が生じるケースもあります。

また、妊娠中は処置内容が制限されることがあるため、一度の通院で完結しない可能性もあります。

事前にお見積もりをご希望の方には、初診時にわかりやすくご案内しておりますので、どうぞご遠慮なくお尋ねください。

5.まとめ

妊娠中の親知らずの抜歯は、赤ちゃんとお母さんの健康を第一に、慎重な判断が求められます。

基本的には妊娠中期が処置に適した時期ですが、痛みや腫れなどの症状が強い場合には、妊娠初期や後期でも治療を検討することがあります。

歯科で使用される局所麻酔や薬は、ごく少量で胎児への影響が少ないとされており、必要に応じて安全に対応することが可能です。

妊娠中のお口のトラブルでお悩みの方は、どうぞ一度ご相談ください。産婦人科との連携のもと、充実したカウンセリングを行い、安心して治療を受けていただける体制を整えております。

筆者プロフィール:河底晴紀(歯学博士/日本矯正歯科学会認定医)

この記事は、河底歯科・矯正歯科院長河底晴紀が書いております。

◾️資格

・歯学博士

・日本矯正歯科学会認定医

◾️所属

日本矯正歯科学会

・日本臨床歯科学会

・K-Project

・FCDC

・MID-G

広島県歯科医師会

・福山市歯科医師会 理事

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