
日本矯正歯科学会認定医・歯学博士 河底晴紀
「矯正治療で顎関節症は治りますか?」は、歯科矯正を検討する多くの方が抱く疑問のひとつです。本記事では、河底歯科・矯正歯科が行っている顎関節症治療の内容や、矯正治療と顎関節症治療の違い、治療手順や注意点について専門的かつ分かりやすく解説します。
矯正治療の目的と顎関節症治療の違い
矯正治療は主に「歯並びを審美面・機能面で改善する」ことを目標とし、歯列や噛み合わせを治すことで咀嚼・会話など口腔機能の安定や見た目の美しさを高めます。これに対し顎関節症は、「下顎関節や周囲の筋肉の痛み・違和感・開けづらさ」などを主症状とし、直接的には歯列矯正で治すことはできません。
顎関節症の治療法:マウスピース(スプリント)療法とボトックス治療
河底歯科・矯正歯科が提供する顎関節症治療は、目的に応じて以下の2つです。
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マウスピース(スプリント)療法
専用マウスピースを就寝時や日中に装着し、噛む力や食いしばりを分散させて顎関節への負担を軽減します。長期的な安定や症状改善を目標とする治療法で、保険適用の場合も多く、経済的負担も少なく続けやすいのが特徴です。定期的な経過観察や調整が欠かせません。 -
ボトックス(ボツリヌストキシン)治療
咀嚼筋(とくに咬筋)に適量を注射して筋肉の緊張を和らげ、痛みや開閉障害の即効的改善が期待できます。ただし効果の持続は3ヶ月前後なので、定期的な投薬(注射)が必要です。即効性と短期的な効果を求める症状に適しています。
矯正治療と顎関節症治療の関係
矯正治療は歯並びと噛み合わせの改善を通じて口腔機能の安定に貢献しますが、顎関節症自体を直接治療するものではありません。
「矯正治療を受けたら顎関節症が治る?」という問いに対して、「歯並びや咬合異常が顎関節症の一因だった場合、たまたま症状が改善することもある」が、ほとんどのケースで矯正治療だけで顎関節症が治るわけではありません。逆に、治療中に噛み合わせや顎への力の分布が変化し、一時的に症状が悪化することもあるので注意が必要です。
矯正で顎関節症が改善しやすいケースの条件は、主に「噛み合わせや歯並びの不正が顎関節に負担をかけている場合」といえます。特に以下の条件を満たす場合、矯正治療の介入によって顎関節症の症状緩和が期待されます:
顎関節症改善が期待できるケース
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噛み合わせが大きくズレていて、咀嚼時に片側だけで食べている習慣がある
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上下の歯が正しく接触せず、出っ歯や受け口などで下顎が後方や側方へずれている
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歯ぎしりや食いしばりの癖が歯列不正による場合
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噛むときの左右差や違和感が強く、顎関節や周囲筋肉へ負担が集中している
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軽度の顎関節の痛みや違和感(関節円板や骨自体の損傷がない)
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歯列不正以外の明確な骨構造障害や関節円板のずれが認められない
矯正治療が有効でない場合
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MRIやCT検査で関節円板の前方転位、癒着・骨の変形が確認された場合
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強い炎症や急性の開口障害
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精神的なストレスや習慣的な筋肉の緊張が原因となっている場合
注意点
矯正治療の対象となる顎関節症は、精密診断によって「咬合由来」であると判断されたケースが中心です。症状の原因によっては矯正単独での改善が難しいこともあるため、必ず事前検査・専門医の診断が必要です。
外科的治療が必要になる顎関節症の具体的な所見は以下の通りです:
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口が極端に開かない強い開口障害(指を縦にして2本入らないほど)
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関節円板の位置異常が強く、自然に戻らず顎関節の動きを著しく妨げている
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顎関節内部に癒着や骨の変形が見られる(MRI・CT・レントゲンで確認)
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痛みが慢性的に強く、保存的治療ではコントロールできない
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顎関節強直症や変形性顎関節症などの骨・関節障害
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関節鏡視下手術や関節円板切除・形成、人工関節置換が検討される場合
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外傷後の顎関節機能不全で他の治療が効果を示さないケース
一般的に、これらは保存療法(マウスピース・理学療法・ボトックス)で改善しなかった重度の症状であり、手術は最終手段として大学病院等専門施設での実施が多いです。また術式は、関節鏡下の低侵襲手術から皮膚切開による開放手術まで患者の状態により選択されます。
当院で行う治療の流れと方針
顎関節症の治療を希望される場合、いきなり矯正治療に入るのではなく「顎関節の安定化を優先する」手順をとっています。
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顎関節症状に対するスクリーニング・診断
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まずスプリント(マウスピース)療法を、最低3ヶ月は継続
→顎の正しい位置を探ること(顎位安定化)が治療の第一歩です -
症状が強い場合や早めの改善を希望の場合は、ボトックス治療を併用
→即効性と持続性を組み合わせ、症状・目的に合わせて治療プランを作成します -
顎関節の安定・症状消失を確認してから、必要に応じて矯正治療に着手
→顎の位置が安定している状態から歯列矯正へ移行することで、症状再発などを予防できます。矯正治療開始までに最低3ヶ月かかりますが、長い目で見ると遠回りのようで近道です。
治療選択時のポイント
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マウスピースは「長期安定・再発予防」には有効ですが、使い続けることが大事です
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ボトックス治療は「即効性重視」ですが、定期的投与が必須。根本治療ではありません
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矯正治療と顎関節症治療は目的が異なるので、症状や希望に応じて治療プランを分けて組み立てます
患者様へメッセージ
歯並びの美しさと顎関節の健康は、口腔全体のバランスと快適な日常生活に大きく関与します。顎関節症で悩まれている方、噛み合わせや見た目の改善も気になる方は、必ず専門医と相談して最適な治療法を見つけてください。河底歯科・矯正歯科では、両方の症状に精密な診断と個別対応ができる体制を整えています。
顎の違和感、痛み、口が開きづらい、歯並びが気になる方は、早めのご相談・精密検査がおすすめです。口腔全体の健康管理をサポートいたします。初めての方はこちらをご覧ください。
筆者プロフィール:河底晴紀(歯学博士/日本矯正歯科学会認定医)
この記事は、河底歯科・矯正歯科院長河底晴紀が書いております。
◾️資格
・歯学博士
・日本矯正歯科学会認定医
◾️所属
・日本臨床歯科学会
・K-Project
・FCDC
・MID-G
・福山市歯科医師会 理事





