
✦ 監修:河底歯科・矯正歯科 院長 河底晴紀(歯学博士・日本矯正歯科学会認定医)

そんな悩みを抱えながら、ようやく勇気を出して矯正治療を始めた方もいるかもしれません。でも、治療を始めてしばらく経つと、こんな不安が頭をよぎることがあります。
「矯正って、もし途中でやめたくなったらどうなるんだろう?」「仕事が忙しくて通えなくなったら?引っ越ししたら?やめても大丈夫?」
正直に言います。矯正治療は、理論的にはいつでもやめることができます。でも、途中でやめることにはいくつかの深刻なリスクがあります。この記事では、矯正認定医の立場から「途中でやめたらどうなるのか」を包み隠さずお伝えします。「やめたい理由」ごとの対処法もご紹介しますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
そもそも、矯正治療は途中でやめられますか?
結論から言うと、「やめること自体はできます」。矯正治療はあくまで患者さんと医院の双方の合意のもとで進むもので、患者さんが「やめたい」と申し出れば、医師が強制的に続けさせることはできません。
ただし、「やめられる」ことと「やめても問題ない」ことは、まったく別の話です。
途中でやめると「後戻り」が起きる
矯正治療の最大のリスクが、「後戻り(リラプス)」です。わかりやすくたとえると、こういうことです。
矯正治療中の歯は、ちょうど「引っ越しの最中」のような状態です。家具を新しい位置に動かしている途中で引っ越し作業を中断すると、家具は元の場所に戻ろうとしてしまいます。歯も同じで、動いている途中で治療を止めると、元の位置に戻ろうとする力が働きます。
これが「後戻り」です。治療中の歯は歯根を支える骨(歯槽骨)がまだ安定していないため、装置を外したとたんに動き出してしまいます。
さらに怖いのは、「元の歯並びに戻るだけ」では済まないケースがあることです。矯正のために抜歯をしていた場合、そのスペースが埋まる前に治療をやめると、隣の歯がそのスペースに傾いてしまいます。その結果、矯正前よりもかみ合わせが悪くなることがあります。
国際的な医学データベースPubMedに掲載された研究では、矯正後の後戻りは保定装置(リテーナー)を使用していても起き得る複雑な現象であり、「すべての患者を後戻りリスクが高いものとして扱う必要がある」と述べられています。
《出典》Retention and relapse in clinical practice(PubMed)
途中でやめると起こる4つの問題
治療の途中でやめると歯並びが整わないままかみ合わせが定まり、顎関節症・頭痛・肩こりのリスクが高まります。「うどんが噛めない」悩みがさらに悪化する可能性もあります。
矯正装置をつけたまま通院を中断すると、定期クリーニングを受けられず口腔内の状態が急激に悪化することがあります。
精密検査費・装置費など治療開始時のコストは返金されないことが多く、他院で再開する場合は検査からやり直しとなります。
中断中に後戻りが進んだ分、再開時の治療期間も費用も増えてしまいます。中断期間が長いほど条件は悪くなります。
「やめたい」と感じたときの理由別対処法
矯正治療を途中でやめたくなる気持ちは、決して珍しいことではありません。ただ、やめる前に一度、以下の対処法を試してみてください。
| やめたい理由 | 現実的な対処法 |
|---|---|
| 痛みがつらい | 我慢せず担当医に伝えてください。ワイヤーの圧力を調整するだけで大幅に和らぐことがほとんどです。「痛みがつらい=やめる」ではなく「痛みがつらい=相談する」が正解です。 |
| 引っ越し・転勤 | 多くの医院では転院先への紹介状・データ引き継ぎに対応しています。グループ医院がある場合は同じ条件で継続できることも多いです。まず担当医に相談を。 |
| 妊娠・出産 | 妊娠中期(安定期)であれば多くのケースで継続できます。つわりがひどい時期や後期は調整を緩めるなど配慮してもらえます。 |
| 費用が続かない | 総額制の医院なら追加費用は最小限です。デンタルローンの再設計なども相談できます。「お金の問題だから言いにくい」と思わず正直に伝えてみてください。 |
| 医院との相性が悪い | セカンドオピニオンを活用しましょう。別の矯正認定医に意見を聞くことで、不安が解消されたりよりよい方法が見つかることもあります。 |
どうしても中断しなければならない場合にやること
やむを得ない事情で中断が必要になった場合でも、「黙って通院をやめる」だけは絶対に避けてください。矯正装置をつけたまま放置するのは口腔内にとって大変危険です。
★担当医に必ず相談・連絡する装置を適切に外してもらう(自己判断で外さない)
★仮のリテーナーを作製してもらい後戻りを最小限に抑える
★費用の精算・返金ルールを確認する
★将来的に再開する場合に備え、治療データを保管してもらう
これらの手続きをとることで、もし再開したくなった際にスムーズに治療を始めることができます。
まとめ
矯正治療は、途中でやめることは「できる」けれど、「してほしくない」ものです。理由をまとめると以下のとおりです。
- 歯が元の位置に戻る「後戻り」が高確率で起きる
- 抜歯をしている場合、治療前より歯並び・噛み合わせが悪化することがある
- 虫歯・歯周病のリスクが高まる
- これまでかけた費用・時間が水の泡になりかねない
- 再開する場合、また時間とお金がかかる
もしいま「やめようかな……」と迷っているなら
まず担当医に「やめたいと思っていること」を正直に話してみてください。悩みや不満を打ち明けることで、解決策が見つかることは少なくありません。
河底歯科・矯正歯科では、矯正治療中のどんな悩みや不安にも、認定医が丁寧に向き合います。「続けるのがつらい」「通えなくなるかもしれない」と感じたときも、一人で抱え込まずにご相談ください。
接客の仕事で毎日笑顔を届けているあなたが、今度は自分自身の笑顔に自信を持てる日が必ずきます。うどんを前歯でパクッと食べられる日に向けて、一緒に最後まで歩んでいきましょう。
- Retention and relapse in clinical practice(PubMed)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28297088/
- Relapse and inadvertent tooth movement post orthodontic treatment(PMC / NIH)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10880701/
- Orthodontic Relapse after Fixed or Removable Retention Devices(MDPI Applied Sciences)https://www.mdpi.com/2076-3417/13/20/11442





