そのお悩み、よくわかります。「矯正=楽器を吹けなくなる」「スポーツができなくなる」というイメージを持っている人は多いです。でも、それは大きな誤解です。
矯正治療中でも、スポーツも楽器演奏もできます。世界中の矯正専門医が認めていることです。もちろんちょっとした慣れや工夫は必要ですが、部活も矯正も、どちらも諦める必要はまったくありません。この記事では、矯正治療とスポーツ・楽器演奏の両立について、詳しく解説します。
結論:矯正中でもスポーツも吹奏楽もできる
まず最初にはっきり言います。矯正治療中でも、スポーツや楽器演奏は続けられます。
米国矯正歯科医師会(American Association of Orthodontists / AAO)は、矯正治療が運動やスポーツを禁止するものではないことを明確にしており、適切な保護器具(マウスガード)を使うことで、ほぼすべてのスポーツに参加できると述べています。
楽器演奏についても同様で、英国矯正歯科学会(British Orthodontic Society / BOS)は「吹奏楽器の演奏者のほとんどが、矯正装置をつけたままでも数ヶ月以内に演奏に慣れることができる」と公式に案内しています。
矯正装置をつけることは、新しいグローブをはめて野球を練習するようなものです。最初は「なんか違う」「いつものプレーができない」と感じるかもしれません。でも毎日練習を続けているうちに、新しいグローブに手が慣れて、むしろ以前より動きやすくなる。矯正装置も同じで、最初は違和感があっても、練習を続けることで必ず慣れます。
《出典》Mouthguards for Braces: Why They’re Essential for Sports(American Association of Orthodontists / AAO)https://aaoinfo.org/whats-trending/why-mouth-guards-are-essential/
《出典》Advice for Musicians(British Orthodontic Society / BOS)https://bos.org.uk/schools/advice-for-musicians/
スポーツと矯正——マウスガードが最強の味方
矯正治療中にスポーツをするうえで一番大切なのが、マウスガード(マウスピース型の保護具)の着用です。
なぜなら、矯正装置(ブラケット・ワイヤー)がついている状態で口元に衝撃を受けると、装置が唇の内側を傷つけたり、装置が破損して治療が遅れたりするリスクがあるからです。
PMC(米国国立医学図書館)に掲載された研究によると、子ども・青年のスポーツ中の歯の外傷のうち10〜39%がスポーツ活動中に発生しており、上の前歯への外傷が全歯科外傷の最大80%を占めることが示されています。矯正治療中で出っ歯(上顎前突)がある場合は、前歯が出ているため特に外傷リスクが高くなります。だからこそ、マウスガードが非常に重要です。
《出典》Mouthguards During Orthodontic Treatment(PMC / National Library of Medicine)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7537672/
スポーツ別・矯正中の注意点
口元への衝撃リスクが高いスポーツ。矯正用マウスガードを必ず着用しましょう。市販の「ボイル&バイト」型より、矯正装置に対応した専用マウスガードが理想的です。
マウスガードがあれば通常通り参加できます。
口元への直接衝撃が少ないスポーツ。マウスガードがなくても基本的に問題なく参加できます。
水泳の場合、プールの塩素が口腔内を乾燥させることがあるので、練習後の歯磨きをしっかり行いましょう。
① 矯正装置(ブラケット・ワイヤー)の上からフィットするものを選ぶ
② 歯科医院で作るカスタムタイプが最も安全で快適
③ 市販品を使う場合は「矯正対応」と書かれたものを選ぶ
④ 衝撃で装置が外れたりワイヤーが曲がった場合はすぐに歯科医院に連絡する
吹奏楽器の演奏と矯正——「慣れ」で乗り越えられる
吹奏楽部に入ろうとしている方に特に知っておいてほしいのが、管楽器と矯正装置の関係についてです。
Journal of Clinical Orthodontics(JCO)に掲載された研究では、矯正装置をつけた管楽器奏者78名を対象に調査が行われました。結果はこうです。
・木管楽器(クラリネット・サックス・フルートなど):1ヶ月以内に演奏に慣れた人がほとんど
・金管楽器(トランペット・トロンボーン・ホルンなど):慣れるまでに平均1〜3ヶ月かかった
・ほぼ全員が「最終的には装置をつける前と同じレベルで演奏できるようになった」と回答
・最もよく使われた対策:ブラケットへのワックス(蝋)の貼り付け
《出典》The Effects of Orthodontic Appliances on Wind-Instrument Players(Journal of Clinical Orthodontics / JCO)https://www.jco-online.com/archive/2006/06/384-the-effects-of-orthodontic-appliances-on-wind-instrument-players/
つまり、「最初はちょっと大変だけど、練習を続けていれば必ず慣れる」ということが、研究でも証明されています。
楽器の種類別・矯正中の特徴
マウスピースに対する唇の圧力が比較的少ないため、慣れが速い傾向があります。
クラリネットやサックスは下唇にリードが触れるため、主に下の装置への違和感が中心です。上の装置へのワックスで対応しやすいです。
慣れの目安:1ヶ月以内
マウスピースを上下の唇に押し当てるため、最も影響を受けやすいカテゴリです。高音域の演奏に一時的な困難が生じることがあります。
ただし、マウスピースを強く押し当てないようにする「アンブシュア(口の形)の調整」と練習を継続することで対応できます。
慣れの目安:1〜3ヶ月
唇をアンブシュアホール(吹き口の穴)に当てて息を送り込む楽器です。ブラケットが唇の動きに干渉することがありますが、調整で対応可能です。
木管楽器の中では慣れるまでやや時間がかかる傾向がありますが、1〜2ヶ月程度で慣れる方が多いです。
慣れの目安:1〜2ヶ月
矯正装置による演奏への影響がほぼありません。口元を楽器に当てる必要がないため、装置をつけてすぐでも問題なく演奏を続けられます。
影響:ほぼなし
吹奏楽部員が実践すべき5つの対策
矯正装置をつけながら楽器演奏を続けるために、実践的な対策を紹介します。
- ワックス(歯科用蝋)を常に携帯する
練習前にブラケットに貼ると、唇・頬への摩擦を大幅に軽減できます。歯科医院でもらえるので、常に楽器ケースに入れておきましょう。 - 装置をつけたばかりの時期は短い練習から始める
装置装着直後や調整直後は口の中が敏感です。最初は10〜15分程度の短い練習から始め、慣れとともに徐々に時間を伸ばしましょう。 - 大切な演奏会・コンクールの前に装置の調整をしない
装置の調整(ワイヤー交換など)直後は違和感が増すことがあります。演奏会の2週間前以降は調整を避けてもらえるよう、事前に矯正医に相談しましょう。 - 演奏後は必ず歯磨きをする
管楽器の演奏中は唾液の分泌が増えます。演奏後は丁寧なブラッシング+歯間ブラシでプラーク(歯垢)をしっかり落としましょう。矯正中は特に虫歯リスクが上がるため、ケアが大切です。
《出典》Advice for Musicians(British Orthodontic Society / BOS)https://bos.org.uk/schools/advice-for-musicians/
実は出っ歯(上顎前突)の矯正で演奏が「上手くなる」可能性がある
ここで、とても大切なことをお伝えします。
JCOに掲載されたケースレポートでは、出っ歯(上顎前突・Class II)で上の前歯が出ていた15歳のトランペット奏者の男の子が、矯正治療後に演奏が著しく改善したという事例が紹介されています。
出っ歯の場合、トランペットのマウスピースをうまく口に当てるのが難しく、高音を出すときに顔をゆがめてしまっていました。矯正治療で上顎前突が改善されると、アンブシュアが安定し、演奏の質が明らかに向上したのです。
出っ歯(上顎前突)がある場合、金管楽器の高音域演奏でアンブシュアが不安定になりやすいことが報告されています。矯正によって上顎前突が改善されると、アンブシュアが安定しやすくなり、演奏の技術向上につながる可能性があります。
つまり、「矯正をするために吹奏楽を我慢する」のではなく、「矯正することで演奏がもっと上手くなるかもしれない」という考え方もできるのです。
《出典》Successful Use of Orthodontic Aligners in a Young Brass Instrumentalist(ResearchGate / Journal of Clinical Orthodontics)https://www.researchgate.net/publication/6980949_The_effects_of_orthodontic_appliances_on_wind-instrument_players
楽器演奏者にはマウスピース矯正(アライナー)も選択肢のひとつ
ワイヤー矯正(固定式)に加え、マウスピース矯正(クリアアライナー)という選択肢もあります。マウスピース矯正は透明な取り外し式の矯正装置で、演奏の際に外すことができます。
装置が固定式なので治療効果が安定しています。複雑な歯並びにも対応しやすく、装着を忘れる心配がありません。
スポーツの際はマウスガードと組み合わせて使用します。
演奏の際に取り外せるため、金管楽器奏者に特に向いています。唇への干渉が少なく、アンブシュアへの影響も最小限です。
ただし1日20〜22時間以上の装着が必要なので、練習時間が長い場合は矯正医と相談が必要です。
マウスピース矯正は1日の装着時間(20〜22時間以上)をしっかり守ることが治療効果の前提です。練習のたびに長時間外してしまうと、治療が計画通りに進まなくなります。吹奏楽の練習時間と矯正装着時間のバランスについて、矯正医と事前にしっかり相談しましょう。
まとめ
- ▶矯正治療中でもスポーツ・楽器演奏は続けられる。どちらも諦める必要はない
- ▶スポーツの際はマウスガードを着用することで、ほぼすべての運動に参加できる
- ▶木管楽器は1ヶ月以内、金管楽器は1〜3ヶ月で演奏に慣れる(JCO研究)
- ▶ワックスの活用・短い練習からのスタート・先生への相談が慣れを早める
- ▶出っ歯(上顎前突)の矯正で、むしろ管楽器の演奏が上達するケースもある
- ▶金管楽器奏者にはマウスピース矯正(アライナー)という選択肢もある
「矯正か、吹奏楽か」じゃなくて「矯正も、吹奏楽も」
出っ歯が気になって笑顔になれない、写真で口を閉じてしまう——そんな悩みを抱えたまま高校生活を過ごすのは、本当にもったいないです。矯正治療は、あなたの笑顔を取り戻すための選択であって、好きなことを奪うものじゃない。
吹奏楽部も矯正も、どちらも全力でやってほしい。最初は少し大変かもしれないけれど、それを乗り越えた先に、自信を持って笑顔で演奏できる自分がいます。
河底歯科・矯正歯科では、スポーツや楽器演奏をしながら矯正治療を進めている患者さんをたくさんサポートしています。「吹奏楽部に入りたい」「スポーツを続けたい」——そんな相談も大歓迎です。あなたの高校生活が最高の思い出になることを、心から願っています。
まずは一度、カウンセリングに来てみてください。
- Mouthguards for Braces: Why They’re Essential for Sports(American Association of Orthodontists / AAO)https://aaoinfo.org/whats-trending/why-mouth-guards-are-essential/
- Mouthguards During Orthodontic Treatment(PMC / National Library of Medicine)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7537672/
- The Effects of Orthodontic Appliances on Wind-Instrument Players(Journal of Clinical Orthodontics / JCO)https://www.jco-online.com/archive/2006/06/384-the-effects-of-orthodontic-appliances-on-wind-instrument-players/
- Advice for Musicians(British Orthodontic Society / BOS)https://bos.org.uk/schools/advice-for-musicians/
- Effects of playing a wind instrument on the occlusion(PubMed / National Library of Medicine)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22284280/





