日本矯正歯科学会認定医・歯学博士 河底晴紀
最近ご相談いただいたお子様に「歯牙腫」の症例がありました
「乳歯が抜けたのに、なかなか永久歯が生えてこない…」
「左右の前歯のバランスが明らかにおかしい気がする…」
こうしたお悩みを持つ親御さんは少なくありません。
先日、当院(福山市の河底歯科・矯正歯科)にも、そんな心配を抱えたお母さまが、お子さんと一緒に相談に来られました。
レントゲンを撮影すると、なんと前歯の上に小さな異常陰影がありました。
これが「歯牙腫(しがしゅ)」と呼ばれるもので、歯が正常に萌出しない原因のひとつです。
歯牙腫とは?
歯牙腫とは、歯を作る組織(エナメル質・象牙質・セメント質)が異常に増殖してできる、混合性の歯原性腫瘍です。
腫瘍というと「がん」を連想される方もいますが、歯牙腫は良性腫瘍であり、適切に対処すれば悪性化することはほとんどありません。
10代〜20代の若い世代で見つかることが多く、とくに矯正相談や、永久歯が生えてこないということでレントゲン撮影をした際に偶然見つかることもあります。
歯牙腫には2種類あります
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複合性歯牙腫:小さな歯の形をしたものが集まってできた状態
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複雑性歯牙腫:歯の構造はしていないが、歯の成分が混ざったかたまり
どちらも、通常の歯の萌出を妨げてしまう可能性があります。
また、進行すると周囲の歯を圧迫し、歯並びや噛み合わせに影響を与えることもあるため、早期発見・早期治療が非常に重要です。
実は世界でも話題に|インドで発見された「526本の歯」
皆さんは、数年前にインドで起こった驚きの症例をご存知でしょうか?
CNNニュースよりCNNニュース
インド南部チェンナイにて、あごの痛みを訴えて病院を受診した7歳の男の子の口腔内から、なんと526本の歯が見つかり、摘出手術が行われました。
男の子の下顎の右側に腫れと痛みがあり、検査の結果、異常な数の「歯のような組織」が詰まった嚢胞が発見されました。
手術は数時間に及び、その中から取り出されたすべての歯には歯冠・歯根・エナメル質といった構造が認められました。これはまさに「複合性集合歯牙腫」の一例だったといわれています。
このように、歯牙腫は非常に珍しくもあり、発見が遅れると大きな手術が必要になるケースもあります。
福山の症例でも、早期の発見がカギに
今回、当院での症例は幸いにもお母さまが「なかなか歯が生えてこない」と違和感を覚えられ、矯正相談に来院されたことで判明しました。
レントゲン撮影により小さな影を確認し、専門の口腔外科に紹介することで、適切な対応につなげることができました。
この摘出手術は全身麻酔を必要とすることもあり、当院での処置は行っておりませんが、信頼できる病院の口腔外科にご紹介しております。
歯が生えてこない=すぐに矯正とは限りません
「前歯が生えない」「永久歯が出てこない」と聞くと、すぐに矯正治療が必要だと考えられるかもしれません。
しかし、原因によって対応は大きく異なります。
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顎の成長によって自然に生えてくるケースもある
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歯があるかないか(先天性欠損)で大きく方針が変わる
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歯牙腫があれば摘出が優先
レントゲンや必要に応じてCT撮影を行い、歯の数、位置、方向、周囲組織との関係を確認することが、適切な治療への第一歩です。
歯牙腫が見つかった場合の流れ
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検査(パノラマレントゲン・CT)
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診断と症状の説明
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専門医への紹介(口腔外科)
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必要であれば摘出手術
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経過観察 or 必要に応じて矯正治療
お母さんの「気づき」が命を救うこともある
今回の症例では、違和感を感じたお母さまの気づきが早期対応につながりました。
乳歯が抜けて半年以上たっても永久歯が生えてこない、
左右の歯のバランスが明らかに不自然、など
少しでも「おかしいな?」と思われたら、ぜひ歯科医院で相談してください。
矯正専門の歯科医師であれば、歯並びや噛み合わせの観点からも総合的に診断ができます。
マスク生活が長引いている今こそ、お口のケアを大切に
コロナ禍以降、マスクを着けての生活が長く続き、
「今日はマスクしてるし、歯磨きちょっとでいいか…」
という気持ちになってしまう方も少なくありません。
しかし実際には、
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歯磨き不足による歯ぐきの炎症
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虫歯の進行
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口腔内の乾燥
といった問題を抱えて来院される方が増えています。
こんな時代だからこそ、今一度お口の健康を見直してみましょう。
まとめ|「歯が生えない」には理由がある。早めの診断と適切な治療を
歯が生えてこないという症状は、矯正治療の対象であるだけでなく、
時に「歯牙腫」などの病気が背景にあることもあります。
早めに相談していただければ、より良い形でお子様の将来のお口の健康を守ることができます。
気になる症状がある方は、ぜひ福山市の河底歯科・矯正歯科へご相談ください。
筆者プロフィール:河底晴紀(歯学博士/日本矯正歯科学会認定医)
この記事は、河底歯科・矯正歯科院長河底晴紀が書いております。
・歯学博士
・日本矯正歯科学会認定医
◾️所属
・日本臨床歯科学会
・K-Project
・FCDC
・MID-G
・福山市歯科医師会 理事